2005年のとある日。
吹田メイシアターでワールドミュージックを色々楽しめる催しがありました。
インド音楽、アジアんチンドン、そして、のこぎり・・・・・。
今回は「サキタハヂメ ソロ のこぎりコンサート」のレポートをお送りいたします。
昨年大変お世話になった吹田メイシアターに今年もノコギリの調べが舞い降りました。
世界でもトップクラスのノコ奏者、サキタハヂメさん(今回のレポでは師匠でも支部長でもなくサキタさんと表記します。そーいう気分なの)が満を持して解き放つ魅惑の世界・・・・。
まあ 前置きはこれくらいにして。
ロビーに入るとふわりといい匂いがしました。
ワールドミュージックシリーズではコンサートをイメージした匂いを流しているんです。
うーん いいかんじ。
こじんまりとした小ホールは既に満員です。
年配の方や小さなお子さんまでサキタさんがステージに現れるのをわくわくしながら待っています。
プログラムをみると、どうやら前半はしっとりと、後半はパッショネイトに盛り上げる算段のようです。
楽しみだなあ。
のこオケの頼もしい味方、ピアニスト小松なお子さんが今回もサポートしてくださいます。
おや?
プログラムに記載されている曲に、作曲者「小松なお子」って。
わあ、小松さんのオリジナル曲も聴けるんだ、すごいすごい!
おっと、場内の明かりが暗くなってきましたよ。
軽やかにヘンデルの「楽園~私を泣かせて下さい」のイントロが聞こえてきます。
そこへサキタさん、登場。
あー可愛い(笑)
黒くてすこしだぼっとしたラインのズボンに赤いチェックガラのジャケット。
黒くてまあるいフォルムの鍔つき帽子をパフっと被って、まるで東京キッドのようです。
ついっとステージに置かれたいすに腰掛けると、ノコを手にとります。
♪ひゅらー るらららー
流れている伴奏に合わせて演奏が始まりました。
マイクに何か仕掛けがあるのでしょうか?
今まで聴いたことのあるノコ音ではありません。
もっと、まろやかで、優しくて・・・・。
不可思議な浮遊感に満ち溢れています。
ノコを擦る弓の摩擦音も極力省かれています。
すごいや。
あっけにとられているうちに次の曲へ。
ここで小松さん登場。
シックな黒っぽいドレスがよくお似合いです。
奏でる曲は小松さんオリジナル「紅にほふ」。
切なくなるほど綺麗なメロデイ。
ゆったり時間が流れてゆきます。
ほう・・・・・・・。
あまりに綺麗な演奏だったから拍手するのが躊躇われるほど。
だって、其れまでに構築されたメロデイ世界が壊されそうに感じたのだから。
でも 拍手。
感嘆と驚愕と。
こうしてコンサートは始まったのでした。
きらめくようなピアノのイントロが流れてきました。
氏の最近のお気に入り曲『蘇州夜曲』です。
NHKで演奏した時よりもこの時は、より、人間の歌声に近づいていました。
フレーズの間のとりかたが楽譜どおりではなく、コブシやタメを効かせているからでしょう。
いにしえの歌姫が愛しい人に語りかけているかのごとく。
演奏が三曲続いてようやくMCタイムになりました。
「みんなー。寝てええよ~~~~。」
サキタさんの恍けたトークで会場の空気が和みます。
寝ていいって言われたら寝てしまうじゃないですか。(<前科持ち)
アルファー波が出まくっていますからね。
客席最前列ど真ん中に1歳半ぐらいのかわいいファンがちょこなんと座っていますが、今までの演奏中、ぐずりもせず、眠りもせず、じいっと聴いていましたよ。
すごい事ですよ、これは。
トークはチャップリンの映画の話題へと移ります。
チャップリンは「犬の生活」という作品でのこぎりの音色を女性歌手の歌声として使用していました。
場面は場末のキャバレー。
歌は上手いけれど暗い曲しか歌えないクラブシンガー。
彼女の歌声をのこが物悲しい調べで表現しているのです。
「とても素敵な曲なんですよ。『悲しい唄』といいます。」
目を閉じて聴いてみました。
舞台からサキタさんが消えて、かわりに心細げに佇むひとりぼっちの女性歌手がまぶたの裏にあらわれました。
何が彼女の心に暗闇をもたらしているのでしょう。
その声は苦しげで、儚げで、そして美しくて。
チャップリンの名曲は続きます。
『Eternally』
ああ、そうか。
今日のファッションはチャップリンの「Kid」を意識しているのかもしれません。
トークのなかで幾度となく登場する言葉、「泣き」と「笑い」。
松竹新喜劇大好き、藤山寛美さん大好き、チャップリン大好き・・・・。
うん、うん。
わかるよ わかる。
全身で静かに叫んでいるのがわかるよ。
映画音楽つながりで『ニューシネマパラダイス より 愛のテーマ』へ。
反則だ 反則だ。
このセレクトは反則だ(笑)
緩みかけた涙腺が一挙にダム崩壊です。
いままでは割合クールな音色だったのに、この曲はまるでモリコーネの執念がとり憑いたかのような熱い、情熱的な音が迸っています。
そのわりにサキタさんの演奏中の体は殆どゆれていません。
姿勢正しく椅子に腰掛けて淡々と弓をふるっています。
なのになんなのこの気迫に満ちた音色は!
すごいよ・・・・・凄過ぎる!
呆然としているうちに前半最後の曲になりました。
小松さんオリジナル『フラワー ウインド』
花の舞う軽やかな風のごとく弾き切って。
そして彼らは舞台から去っていきました。
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