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のこぎり莫迦につき危険なり取り扱い注意
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過去ログ  [ アメリカ決戦2004より ]
***税関かんかん(前編)***
    
プロミュージシャンというものは常に自分の楽器とともに行動する。
コンサートツアーに出かける時は特に楽器の取り扱いに注意し、できうるかぎりは己の手でベストの状態を保ちながら運搬したいと考えている。
飛行機や列車に乗るときは、わざわざ楽器のために座席チケットを買って並んで一緒に次の目的地まで、という話も珍しくはない。

楽器は友達。
もしくはそれ以上の存在なのだ。

だがしかし。
これが「のこぎり」だから話がややこしくなる。

映画や小説で殺し屋が楽器ケースに武器を隠し入れて旅をする・・・てなシチュエーションはよくあるが、今回の旅行は普段凶器扱いされているものを楽器として愛好している者たちの集団なのである。

アホだ。


八月某日。関西国際空港。
冒頭から筆者は遅刻した。
あまりにもベタすぎる滑り出しである。
しかも声が潰れてしまって話せない。
懐から電子辞書辞書をとりだして
「ごめん」
「すまん」
「ゆるしてくれ」
「かんにん」
と、ポチポチ打ち込んで人に見せるありさま。
だああああ、うっとおしい!


「さてと、こんなもんかな」

たらすなさんが、きゅっと荷造りひもを結んだ上から
『取り扱い注意・楽器』
と二ヶ国語で大書きしたステッカーを貼り付けた。
スノボ用ソフトケースに皆のノコギリをまとめて収めて
これから荷物として貨物室に入れてもらうのだ。

「大丈夫かなあ」

「結構乱暴に荷物を取り扱うってはなしだし」

「楽器って書いてあるから大丈夫っしょ」

「楽器かあ・・・・」

普通は凶器だよなあ、刃渡り26インチのノコギリって。
気分的には手荷物扱いしたいんだけれども、コレばっかりは無理。

あたりまえだ。
どこぞのアホが次から次へと物騒な騒ぎを巻き起こしてくれるから、空港は必死で「ややこしいものは排除」している。
筆者を含むノコ・オケメンバーはあからさまに怪しい一行なのだから、揉め事は起こさず穏便に、腹の中で今畜生と思っても顔には出さず、ニコニコと出国しようぜと話はまとまっていた。

・・・・・・なにごともありませんように。

どきどきしながらの荷物検査。
HAJIさんは仕事の都合で別便でくるので、先発隊は全部で5名。
きゅるきゅるきゅーとX線捜査を受ける。
先の4名は何事もなく通過。
ノコもするっと通過。
最後に筆者・・・が捕まった。

「手荷物の中に鋏がありますね」

「は?」

ソーイングセットはスーツケースの中のはずだが。
一人だけ引き戻されてカバンをしらべなおすと、あった。
ソーイングセット用のミニ鋏が底板の隙間に落ちていた。
よくもまあ、こんな小さなもの見つけられるものだ。
プロだよなあ。

カバンを詰めなおして再度チェック。
OK。
はー、やれやれ。

「らく乃ちゃん、どしたの?」

「あはは、ちっちゃい鋏入ってた」

「たのむで、しっかりしてや」

「あーもう平気、こっちのもん」

「ノコギリもなんとも言われなかったし良かったね」

はははは。

なごやかに話しているツアーメンバーの背後に
つかつかつかと係員が寄ってきた。

「お客様、申し訳ありませんが、今一度皆様のスーツケースをお返しいたしますので、中を開けていただけませんか?」

はいー?????



やれやれほっとしたのもつかの間今度は残りのメンバー全員が捕まってしまった。

「特別に意味はないんです。再確認することになっているんですよ。」

にこやかに説明する係のおねえさん。
いや、あの私らいまOKもらったところですやんか。
何が悪いねん。
あ、さっきの会話中の「のこぎり」を聞かれたからか?
『楽器』と書かれた荷物はあったけど『危険物』は無かったよな。
だれや、うっかり「のこぎり」言ったやつは。
・・・・・・・筆者じゃん・・・・・・。
注:どうやら予約がダブルブッキングされていたらしく搭乗機変更の為でもあったようだ)


しぶしぶ荷物を引き取って改めて別コーナーでトランクを開けるメンバー。
だから怪しい荷物なんて入ってないってば。

「これなんですか?」

不審感をあらわにとある荷物を指差す係員。
のこぎりの入った例のケースである。
あの、力いっぱい『楽器』って書いてあるんですけど。

「楽器です」
そのまんまじゃん。

「何の楽器ですか?」

「・・・のこぎりです」

「は?!」

「のこぎりですけど楽器なんです」

「?!?!?」

「ほら、横山ホットブラザースがネタでやっているやつ」

「?????」

ああ、どう言えば判ってもらえるのだ。
せっかく丁寧に梱包したのに開けて中を見せなきゃいけないのだろうか。
見せてもわかるのかよ。

お互い進退きわまったとき筆者はとあるものを携帯していたことを思い出した。

「あの、これなんです。この写真見ていただいたらわかります」

もしもの時のために筆者は、某所でのこぎり演奏の営業をしている己自身を撮影してもらって
アーチスト写真(略してアー写)を用意していたのである。
まぬけ面を晒してのこぎりを演奏している筆者を見た瞬間、係員は

「ああ!」

と納得。

「どうぞお通り下さい」

えらいぞ私。

そんなこんなで預け入れ荷物はオールクリア。
晴れて機上の人に・・・・なるはずだったのだが、そうは問屋が卸さなかった。


第一次検査でクリアしたはずの手荷物が
第二次検査現場でまたしても引っかかっちゃったのである。
今度は筆者ではない。
ナンデモさんの『テルミン』がアカンかったのである。

あのう、先生、テルミンってなんですかー?
と仰るあなたの為に補足をば。

テルミンというのはいわゆる電子楽器のご先祖さまである。
ロシアのテルミン博士が開発したもので、ナンカよく分からない機械の詰まった箱にアンテナがにゅっっと二本突き出ている。
このアンテナから、これまたよくわからない電波みたいなものが放出されていて、アンテナに手をかざしたり遮ったりして音階を奏でるという不思議楽器なのである。
この説明で理解できへんという方は、真面目なテルミンサイトが沢山あるので自力で調べてくれたまえ。

とにかく「マシーン」な代物でとてもデリケートな楽器なわけで、とても貨物扱いにはできませんとナンデモさん。
こればかりは手荷物で、それから怪しまれては困るのでテルミンを演奏しているところの写真まで用意して準備万端どっからでもかかって来いてなもんや。

スーツケースは全て預けたし
アホ筆者のドタバタも納まったし
あとは飛行機に乗るだけ・・・・だったのに。


手荷物だけの二次検査。
ナンデモさんだけ係員ともめております。

「なになに、なんなの?」

「ややこしいもの、もうないはずやろ?」

「テルミンかて一次検査パスしたやん」

「それがテルミンと違うらしい・・、あ、どないしたんですか?」

ナンデモさんの顔色が悪い。
「荷物あずけてきます・・・・。先行っててください」

「ええええええ!」

「もう飛行機出ますよお」

「す、すぐ追いかけます」

荷物って何が悪かったんや?
テルミンはココにあるけど。
あれ?


たらすなさんに付き添われて、どうにかナンデモさんも飛行機に間に合った。

「一体何やったんです」

「テルミンを組み立てる時に必要なドライバーのセットがね、アカンのやそうでして」

「えー、一回目の検査の時なにも言われなかったやないですか」

「あまり小さいから見落とされてたのかも」

「ドライバーとかアイスピックとか尖ったものの持込駄目だって」

「アイスピックなんて持ち歩くか?」

「そんな凶器になりそうな大きなドライバーやったんですか」

「ううん、これくらい(小指くらいの長さ)。でも係の人が怖い顔して『この場で捨てるか見送りの人に持って帰ってもらってください』って」

「見送りの人なんておらへんやん」

「それにアメリカで代わりのドライバーなんて手に入れられへんのとちゃうん」

「だから空港カウンターあてで別荷物として届けてもらえるように、何とか話つけてきた」

「うわー大変やー」

でもね、とナンデモさん。
「これはOKだったんだよね」

と大きな***を手に首をかしげた。
「これも工具やねんけど・・・」

「・・・こっちの方が凶器っぽいやん」

「基準がわからへん」


飛行機が何とかアメリカへ着いて後、ぐるぐる回る荷物コンベアーからスーツケースとノコギリを回収して。

「わはははは、やっぱ無いぞ、ドライバーのケース」

「どんな大きさでしたの」

「A4サイズの書類が入りそうなダンボール箱」

「それにミニドライバー3本かあ」

「とにかく探さなきゃ」

「ええーでも、荷物はほぼ下ろされてますよ」

「空港カウンターに届いてないの?」

「先刻聞きに行った時は『無い』って」

「もいちど行ったら」


荷物が全てそろったころにはメンバー全員疲労困憊。
もう、荷物検査の馬鹿。


皆様も旅行に行く時は気をつけましょうね。
あんなでかい刃物何本も持ち込むヒトはあんまり居ないと思うけど。

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主筆者紹介
HN:
いちもんぢ らく乃
HP:
性別:
女性
職業:
危険物楽器扱業
自己紹介:
見たまま怪しい奴
ではありますが
無害です



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