上演10分前。
舞台袖で客席をモニターでみてみると思った以上に空席が目立つ。
勿体無い、もっと宣伝すればよかったと臍をかむ思いだ。
のこぎりとアコーデオンとスチールパンのステージが楽しめるのだぞ、お買い得なのだぞ!!
上演5分前。
アナウンスが入ると、ようやく席が埋まってきた。
ふう。
一昨年もこのメイシアター中ホールにお世話になったが、そのときと緊張の種類が違う。
あの時は単なる武者震いだったけれど今回は責任感の度合いが上がっていた。
一人に付きマイクが一本。
確実に音が観客に届けられる。
良い意味でも悪い意味でも。
「時間や。」
「手順通りに入ってください。」
上がったままの緞帳の下、オケメンバーが席に着く。
らく乃は後列中央へ。
マイクの位置をチェックして、鋸と弓を構える。
全員の準備が整った。
♪ボン・・ボン・ボン・ボン・・・・・・・・・・・・
静かにベースが余韻の尾を引いてリズムを刻み始めた。
一曲目『イロード~侵食』
初っ端からオリジナル曲(しかも重く暗い旋律の大曲)をぶちかましだ。
のこぎりの音が何層にも何層にも重なって、そのうえから更にサキタ師匠の狂おしく切ない旋律が絡まってゆく。
筆者はひたすらに伴奏パートを繰り返して一種のトランス状態になりかけるのを懸命にこらえた。
なにしろこの曲は終わりの一音が放つ余韻が命なのである、気が抜けない。
ほわ、と余韻を残して最後の一音が空に消えた。
と、休まず続いて一人の奏者がマレットでリズムを刻み始めて。
♪コン コン コン コン・・・・
一人、また一人と弓をマレットに持ち換えた奏者がリズムをかさねてゆく。
♪コン コン コン コン・・・
♪んカ んカ んカ んカ・・・
♪んカカッッカんカカッッカ・・
♪ぼーん ぼーん ぼーんぼんぼん・・・
♪カッコン コーンんカ!・・・
♪ぎーちょちょ ぎっちょん・・・
はい、皆さんお待たせいたしましたな。
二曲目は、のこオケがお送りしております数々のレパートリーより、人気ナンバー『カチューシャ』登場。
しかもいつもよりメンバー増量ヴァージョンです、張り切ってまいりましょうか皆の衆。
「ハーッ!ハ!」
掛け声も勇ましく
♪べんよー べよべよー
時折合いの手を入れる怪奇音(サキタ師匠が羊羹流し型の底板を叩いてます)もひざ砕けに
ご存知ロシア民謡は加速して一気に爆発した。
暖かい観客の拍手に一礼した後でようやくMCタイム。
鋸からギターへ持ち換えて、サキタ師匠は次曲の解説をはじめた。
三曲目は『VIOLA』。
今回初めて演奏するオリジナル新曲だ。
実はこの曲はある人物に捧げられた切ない経緯があるのだが、今は語るのは止めて次の機会へまわすことにする。
この件に関しては筆者も少しばかり思いいれがあるのだよ。
金鳳花の野原を風が吹き抜けていくような
青空に鳥が舞うような
爽やかでいて、しっとりとした旋律が紡がれて・・・・
一所懸命に演奏したのだけど。
観客に伝わったのだろうか。
この想いと祈りが。
感慨にふける間もなく直ちに席替え。
ここで筆者は前列へ。すばやくマイクの位置をチェック。
今回のステージは頻繁に座席のシャッフルが行われている。
それもこれもいいハーモニーを観客に届けるための苦肉の策で。
ギリギリまで席替えシュミレーション地獄で、スタッフは耳から煙吹いていた。
合掌。
四曲目はこれまたオリジナル『Saw Rock』
これも人気ナンバーである。
このあたりで筆者もようやく気分が落ち着いてきた。
とくにこの楽曲は大好きなのだ。
サキタ師匠のギターも軽快に
鋸のピコパコした宇宙音やふゅるふゅるした怪奇音で
観客の気分は「シェキナベイベー!」である。たぶん。
あっという間にラストの曲へ。
何故今までこの楽曲を演奏しなかったのか不思議な、のこオケのために存在しているような超強力な破壊力を秘めた新作である。
作曲した北海道のバンド【キッコリーズ】のみなさんアリガトウ!
大事に大事に演奏させていただくよ。
「いくぜ!『オマエハ アホカ ブルース』!」
・・・・・・・・・・えーと。
説明は要らないと思うのでこの楽曲についてはノーコメントで(笑)
上手に演奏するコツはあんまり練習しないことという、哲学的なメロデイには違いないわな。
というわけでこの曲は殆ど練習していなく、なおかつ舞台の上で気の抜けまくった演奏だったのだが、何故かコレが一番客受けよかったのである・・・・・・・とほほほ。
暖かくて盛大な拍手をうけて。
のこぎりオーケストラは自分達のステージを務め上げ、次のアコーデオン楽団へとバトンを受け渡したのであったことよ。
のこぎりオーケストラが舞台から消えて幕が降りると、のこオケよりサキタハヂメ氏、パンオケより山村誠一氏がマイクをもって登場。
幕間ですっとぼけたトークをくりひろげる、くりひろげる。
誰かあの二人止めてんか。
続いて登場したアコーデオン楽団【リュクサンブール公園】
6人のアコーデオン+1人のパーカッション。
メンバーは全て女性の華やかな一団である。
今回の衣装も可憐なブラウス、シックなスカート。
頭に大きく白い花飾りをつけて、とてもキュートだ。
おお、先刻までのこオケにいた二人も早変わりで再度登場しているぞ、がんばれー。
ヨーロッパの香りたかく、軽やかに華やかに楽しげな音色を響かせて彼女達一団は観客を魅了した。
さてお次はスチールパン。
セッティングのため再び幕間のおしゃべりタイムはサキタ氏とリュクサンのGINさん。
のほほーんとした口調で飛び出すズッコケ話にひとしきり沸いたあと、本日一番アグレッシヴな楽団【山村誠一とone hartz pan groove】が登場した。
この地点で筆者達は楽器を手に再度舞台袖に集合していた。
アンコールのためである。
が、つい現地点で演奏中のパンオケに引き込まれてテンションはノリノリ最高潮になってしまっている。
「山本リンダメドレー」なんてのこオケメンバーが数人踊り狂っていたぞ(笑)
他人事ながら観客席から見えていなかったか心配だ。
最大の笑顔とグルーヴを迸らせてパンオケのラストナンバーがキマッタ。
「アンコール行ってもええかな~~~~~~。」
お客の興奮冷めやらぬうちに、のこオケ連中は楽器と椅子を持って速やかにセッティング。
♪ばらっば ばらっぱらぱ ぶーがー ぶがぶが
おや、客席中央部分からアコーデオンの音色が・・・・・・・
【リュクサンブール公園】が演奏しながら登場すると観客は大喜びだ。
♪ツッパ パラッタ ラッタッタ!
舞台上のカホン(南米生まれの打楽器)がアコーデオンのメロデイに答えて思わず踊りたくなりそうなリズムを返す。
そこへスチールパンや鋸がどんどん加わってアンコール曲「ミスター・ペリエ」へ。
リュクサンのオリジナルナンバーを皆で大合奏だ。
全員揃うとあまりにも大所帯な舞台上。
リュクサンのお姉さまたちはやむなくステージ最前に腰を下ろしてお客さんとご対面~。
最前列に座っていた観客は綺麗に並んだ彼女達のおみ足に、さぞや目のやり場にこまったことであろう(笑)
さて座りっぱなしだった鋸もとうとうここで踊りだすはめに。
じつは今回新たに編み出された新奏法の初公開の場でもあったのだ。
・・・・・・っていうのは大げさだな、すまぬ。
以前筆者がフザケテやった『ギターみたいに胸で抱えてマレットでポコポコ叩く』やつが「やってる姿がオモロイから採用」になっただけなのでな。
これは音程は不安定だが愉快な音を鳴らすだけなら支障がないし、なにより演奏しながら踊れるのである。ここがポイント。筆者も麦踏みたいなステップで大汗をかいていた。
ギロしかいなかったダンシングチームにマレットも参入で、お祭りムードは最高に盛り上がった。
「ミンナ~立って踊ってええよ~~~~。」
ロックライヴじゃあるまいし、何を言い出すのだと思えばなんと、観客も立ち上がって踊りだしたではないか。
「わーん つー わーんつーすりー!」
♪チャーチャらちゃっちゃちゃ ちゃ!!
ご存知『ブラジル』へとなだれ込んだ。
流石にマレット隊も着席してベース音を刻む。
スチールパン隊のド迫力に負けないよう
アコーデオン隊の華やかさに負けないよう
のこぎり隊もがんばりました。
メロデイとリズムとパッションと。
わけがわからなくなるほど愉快だね楽しいね嬉しいね。
エンディングでグダグダになりつつも用意した全曲は終了。
「みなさん聞いてくれてどうもありがとうございましたー!」
おしまい
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